修理実績

生産ライン停止!ウォータージェットを制御する古いPCの故障から、数千万円の設備投資を回避した延命事例

修理の鉄人実績ブログ
The following two tabs change content below.

森田起也@パソコン修理の鉄人・(株)日本ピーシーエキスパート代表

1995年シリコンバレーでパソコンと出会い、プラント制御、カーナビの開発・設計を経て2003年に独立。産業用PC修理延命事業を開始。現在はパソコン修理の鉄人として、千葉県柏市にて、日本全国の生産現場の旧型PC修理・延命を行っております!趣味はトライアスロンでそっちでも鉄人です!!

設備投資の判断に悩む、全国の経営者・設備管理責任者の皆様へ。

「生産に不可欠な機械が、ある日突然動かなくなった…」
メーカーに問い合わせても「サポート終了です」の一言。目の前にあるのは、数千万円、場合によっては億単位の新型設備への更新計画書のみ。このような事態は、企業の事業継続計画(BCP)そのものを揺るがす、まさに経営の危機と言えるのではないでしょうか。

先日、弊社にもまさにそのような状況に陥ったお客様から、一本の緊急連絡がございました。それは、生産ラインの心臓部であるウォータージェット加工機が、制御用PCの不調で完全に沈黙してしまったという、切実なご相談でした。

この記事では、メーカー修理不可とされた20年以上前の産業用PCを、弊社の技術でいかにして蘇らせ、お客様の生産ラインを救い、巨額の設備投資を回避したか、その一部始終をご紹介します。これは、貴社の未来にも起こりうる物語です。

お客様からのSOS「ウォータージェットが動かない。あと5年は使いたい」

ご依頼いただいたのは、福岡県で製造業を営むお客様でした。ウォータージェット加工機の電源が突然入らなくなり、調査したところ、制御を司る産業用PC「NS-608FF-8S4-842LV-P24M512」が起動しないことが判明したとのこと。

一度は起動したものの、すぐにまた電源が落ちるという不安定な状態。この機械がなければ業務が完全に停止してしまうため、一刻も早い復旧が求められていました。さらに、「この設備はまだ十分に使える。少なくともあと5年は稼働させたい。可能であれば、万一の事態に備えて予備機も準備できないか」という、将来を見据えた強いご要望もいただきました。

メーカーサポートがとうの昔に終了した古いPC。しかし、このPCが動かなければ、数千万円のウォータージェット加工機はただの鉄の塊です。弊社の3万件を超える修理・延命実績が、まさに試される瞬間でした。

複合的な故障の解明 – 弊社の診断技術

早速PCをお預かりし、弊社の技術者が診断を開始しました。結果、長年の稼働による経年劣化が各所に及んでおり、複数の要因が絡み合った複合的な故障であることが判明しました。

  • メインボード(CPUボード): アルミ電解コンデンサの破裂・液漏れ
  • 電源ユニット: 内部部品の劣化による出力不安定・故障
  • ストレージ: HDD(ハードディスクドライブ)の物理的な劣化と異音
  • 冷却機構: CPUファン、ケースファンからの異音と冷却能力の低下

これらの症状は、一つひとつがPCの安定稼働を阻害する致命的な要因です。弊社は、お客様の「5年間の安定稼働」というご要望と、将来的なリスクヘッジ(予備機制作)のご意向を踏まえ、以下の3つのプランを提示しました。

  1. 【応急修理プラン】: 最小限の部品交換で、とにかく現場の設備を早期復旧させるプラン。
  2. 【修理+延命プラン】: 故障箇所だけでなく、今後故障が予測される劣化部品も全て交換し、徹底したオーバーホールで長期安定稼働を目指すプラン。
  3. 【予備機制作プラン】: 現在のPCと全く同じ仕様のPCを新たに製作し、BCP対策を万全にするプラン。

お客様は、今後の事業継続性(BCP)を最も重視され、根本的な解決と長期安定稼働を実現する「修理+延命プラン」をご選択されました。

数千万円の設備投資を回避した「修理+延命」オペレーションの全貌

ここからは、弊社の技術者がどのようにして20年前のPCに新たな命を吹き込んだか、その具体的な作業内容をご覧ください。

基板のオーバーホール:電子回路の血流を再生する

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】破裂したCPUボードのコンデンサ全数交換
マザーボード上で破裂し、電解液が漏れ出しているコンデンサが確認されました。これは氷山の一角です。弊社では、破裂した部品だけでなく、外観上は問題なくとも内部劣化が進行している同世代のコンデンサを全て、高信頼性の日本製105℃品に交換します。この耐熱性の高い部品選定は、電子部品の寿命予測に用いられるアレニウスの法則(k = A・exp(-Ea/kT))に基づき、PCの寿命を飛躍的に延ばすための重要な処置です。また、漏れ出た電解液は基板の銅箔パターンを腐食させるため、特殊な溶剤で完全に洗浄・除去します。この地道な作業こそが、再発防止の鍵となります。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】マザーボードのボタン電池交換
BIOS(バイオス)設定を保持するためのボタン電池も新品に交換。この電池が切れると、起動設定や時刻情報が失われ、PCが正常に起動しなくなる原因となります。見過ごされがちですが、安定稼働に不可欠な基本メンテナンスです。

心臓部の刷新:安定した電力供給とデータ保持

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】産業用高耐久電源ユニットへの交換
PCの心臓部である電源ユニットは、長年の稼働で最も劣化が進む部品の一つです。弊社では、汎用品ではなく、24時間365日の連続稼働を前提とした産業用の高耐久ニプロン製電源に換装しました。安定したクリーンな電力供給は、全ての電子部品を保護し、システム全体の信頼性(MTBF: 平均故障間隔)を大幅に向上させます。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】産業用高耐久HDD(SSD)へのデータ移行
劣化し異音を発していたHDDは、いつクラッシュしてもおかしくない「時限爆弾」でした。弊社では、物理的な駆動部がなく衝撃や熱に強い産業用SSD(ソリッドステートドライブ)へ換装。この古いPCのIDE規格に適合する特殊なストレージを選定し、OSや専用ソフト、設定情報をセクタ単位で完全に複製(クローニング)しました。これにより、お客様は交換前と全く同じ環境で、即座に業務を再開できます。

熱対策の徹底:寿命を延ばすための科学的アプローチ

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】CPUヒートシンクの清掃と熱伝導グリスの再塗布
CPUの熱を吸収するヒートシンクに詰まった塵埃を徹底的に清掃。さらに、CPUとヒートシンクの間に塗布され、経年で硬化した熱伝導グリスを剥離し、熱伝導率の高い新しいグリスを均一に再塗布しました。これにより、CPUの冷却効率が劇的に改善します。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】劣化したCPUファンの新品交換
異音の原因となっていたCPUファンを新品に交換。CPUを安定して冷却し続けることは、システムの暴走を防ぎ、長期的な安定稼働に不可欠です。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】劣化したフロントファンの新品交換
PCケース内部に外気を取り込むフロントファンも新品に交換。これにより、ケース内のエアフローが改善され、PC全体の温度上昇を抑制します。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】フロントパネルフィルターの新品交換
長年の使用で目詰まりした吸気フィルターを新品に交換。これにより吸気効率が回復し、内部への塵埃の侵入を防ぎます。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】冷却ファン二連増設によるエアフロー強化
熱がこもりやすい箇所に、新たに冷却ファンを2基増設。ケース内のエアフローを強制的に最適化し、熱の滞留を防ぎます。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【効果検証①】サーモグラフィによる熱分布の確認(対策前)
これは対策前の高負荷時の熱分布です。CPU周辺や電源ユニット部分に熱が集中し、赤色の高温領域が広がっているのが分かります。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【効果検証②】サーモグラフィによる熱分布の確認(対策後)
そして、これが全ての熱対策を施した後の熱分布です。高温領域が劇的に縮小し、全体の温度が大幅に低下していることが一目瞭然です。電子部品の寿命予測に用いられるワイブル分布(F(t)=1-exp[-(t/η)^β])のパラメータは温度に大きく左右されます。「温度が10℃下がれば寿命は2倍になる」という経験則は、まさにこの科学的根拠に基づいています。弊社の徹底した熱対策は、お客様の設備を今後5年、10年と守るための、科学的根拠に基づいた延命策なのです。

最終確認と品質保証

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】部品実装後の内部確認
全ての部品交換、増設、配線整理が完了した状態です。整然とした配線は、安定したエアフローを確保するためにも重要な要素です。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】クローンストレージでのOS起動・ライセンス認証確認
新しいSSDからOSが正常に起動し、ライセンス認証が維持されていることを確認します。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】Windows起動と連続稼働テスト
Windowsの正常起動はもちろんのこと、ここから最低48時間以上の連続稼働テスト(エージング)を行い、初期不良や不安定な挙動がないかを徹底的に検証します。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】専用アプリケーションの起動確認(フローカット)
お客様の業務に必須の専用制御ソフトウェア「フローカット」が問題なく起動し、動作することを確認します。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】専用アプリケーションの起動確認(フローパス)
同様に、もう一つの必須ソフトウェア「フローパス」の起動・動作も確認。OSやハードウェアだけでなく、お客様の業務アプリケーションレベルでの動作保証が重要です。

NS-608FF-8S4-842LV-P24M512の写真

【作業内容】高負荷テストの実施
最後に、専用ツールを用いてCPUやメモリに極限まで負荷をかけ、過酷な条件下でもシステムが安定して動作し続けるか最終テストを実施。このテストをクリアして、初めて弊社の品質基準を満たしたことになります。

結論:修理は、未来への投資である

弊社の「修理+延命」プランにより、お客様のウォータージェット加工機は無事に息を吹き返し、再び生産ラインの心臓部として安定稼働を開始しました。そして何より、お客様は数千万円規模の突発的な設備投資を回避し、その予算をより戦略的な分野へ振り向けることが可能になったのです。

弊社が行っているのは、単なる「故障部品の交換」ではありません。3万件以上の実績と、ハードウェア・ソフトウェア・システムに精通した技術者の総合力をもって、お客様の資産である既存設備を科学的根拠に基づいて延命させ、企業の事業継続に貢献する「経営コンサルティング」であると自負しております。

貴社の工場にも、メーカーサポートが終了した古いPCに制御された、替えの効かない大切な設備はありませんか?それは眠れる資産であると同時に、いつ火を噴くか分からない「時限爆弾」かもしれません。

生産ラインが止まるその日を待つのではなく、予防保全や予備機製作といった「未来への投資」をご検討ください。弊社は、そのための最適なソリューションを、必ずご提案いたします。